AKIKO KOGA

古賀 亜希子

「セルビア展 -ミランとセルビアの作家たち」に寄せて/冨田章

【文/冨田 章】

《リーリャ・ブリークの秘密の人生》は、セルビアを代表するアーティストの1人で、2019年に53歳で急逝したミラン・トゥーツォヴィッチの代表作である。ロシア未来派の詩人マヤコフスキーをめぐる人間関係をテーマにすえた意欲的な作品だ。トゥーツォヴィッチは優れた人物画家だが、ユニークなのは絵をその人物と関わりのあるモノや形象を用いたオブジェに組み込んで提示する手法である。描かれた人物の記憶を召喚する装置と言ってもよい。

ミランの娘ヨヴァナ・トゥーツォヴィッチの《Aylan》は、地中海の浜辺に打ち上げられた、シリア難民の3歳の子どもをモティーフにしている。難民船の遭難という「ありふれた」悲劇の記憶を、忘却の淵から救い出そうとする試みである。

ミランのモデルを務め、アーティストとなったヴァーニャ・パシッチの《教会》は、織物を木枠に張った作品である。祖母から受け継いだ刺繍や織物の技術を活かして制作された。祖母の記憶とともに、作品の提示方法にミランの影響も見てとることができる。

長くセルビアのアーティストを日本に紹介することに尽力し、自らもセルビアで作品を展示してきた古賀亜希子は、生前交流のあったミランのアトリエを写した組写真を出品している。彼女もまた、記憶を重要なモティーフとしてきたアーティストである。

ミランの《リーリャ・ブリーク・・・》が、あたかもメタファーであったかと思わせるような、ミランをめぐる3人の女性アーティストたちによる、「記憶」に関わる作品の競演に期待したい。


【文/冨田 章】東京ステーションギャラリー 館長

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