AKIKO KOGA

古賀 亜希子

展覧会ステートメント/鴻野わか菜

【文/鴻野わか菜】

2019年に世を去ったミラン・トゥーツォヴィッチは、文化の交差点セルビア出身の作家らしく、書籍や映画を通じて文化を自由自在に駆けめぐる越境者だった。ロシアの映像詩人アンドレイ・タルコフスキー、ジョージア生まれのアルメニア人映画監督セルゲイ・パラジャーノフ、イディッシュ作家アイザック・バシェヴィス・シンガーからホルヘ・ルイス・ボルヘスまで。ロシア・アヴァンギャルドもトゥーツォヴィッチの情熱の対象だった。《リーリャ・ブリークの秘密の人生》は、未来派詩人ウラジーミル・マヤコフスキーと、彼の愛人でミューズだったリーリャ・ブリーク、その夫のオシプ・ブリークを描いた作品だ。ソ連政権下で謎と苦悩に満ちた生涯を送った3人をキリスト教の祭壇画を思わせる形式で描いて永遠化した本作には、トゥーツォヴィッチの人間観が現れている。一方、少年時代に訪れた今はもう存在しない理髪店を想起しながら身近な人々を客として描いた《理容室》は、無名な人々を描きとどめる連作だ。理髪師と客の間に対話が生まれるように、トゥーツォヴィッチはモデルや歴史と対話を重ね、部分を通じて世界の全体像を描いてきた。
本展では、トゥーツォヴィッチの生活や作品を写した古賀亜希子による写真と映像、晩年の彼のモデルとなったヴァーニャ・パシッチらの作品も展示される。こうした本展の形式は、人間や文化との交流を愛したトゥーツォヴィッチの遺作展としてふさわしい。


【文/鴻野わか菜】ロシア東欧文化研究者。早稲田大学教育・総合科学学術院教授

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